フィクション履歴

触れることで何かを感じ取れたようなフィクションについての記録です

シャッターアイランド : 伏線回収の気持ちよさと新たに植え付けられる疑問

中盤あたりまでは意味がわからなくていい映画

常に視聴者に疑念を残しつつ最後に事実を突きつけてくる

考察が捗りそう、そういう映画だった

感想までは重要なネタバレ無し

考察からはネタバレありでの記録です。

あらすじ


凶悪犯罪を侵した精神病患者を収容するシャッターアイランド

この監獄は沖合に浮かぶ孤島であり脱獄など不可能

そんなシャッターアイランド1人の女性患者が姿を消す

主人公の連邦保安官テディ・ダニエルズは

操作のために相棒とこの島に乗り込むが...


感想

常に植え付け続けられる謎


失踪した患者を捜査するため

シャッターアイランドにテディが上陸してから物語は始まる。

だが、次第に捜査をしていると、様々な疑念が浮かんでくる。

周りは精神病患者だらけで事情聴取をするにも話が噛み合わない

どこか捜索に積極的ではない看守

この島に隠された陰謀

テディが頻繁に見る夢

失踪した患者はどこに消えたのか

序盤はとにかくこの作品に引き込まれた。

ミステリーが好きな人ならば,

テディと真実について考えながら見入ってしまうだろう。


テディから語られる過去


捜査をしているうちにテディは相棒とある程度打ち解け、

自らの過去を語る。

そこでテディの目的と隠されていた思いを知ることになる。

これにより更に今後の展開から目が離せなくなった。


孤島ならお馴染みの荒れ始める天気


孤島ものならよくある中盤に差し掛かって天気が荒れる展開に...

天気が荒れてトラブルに見舞われるシャッターアイランド

テディはこの隙に調査範囲を広げていく。

遂に何らかの証拠を見つけられるのか?

テディの追い求めるものはこの先にあるのか

しかし,「あれ?」という謎を

これでもかと植え付けてくるシーンの連続??


そして...


焦りを感じ始めるテディ

深まった謎が一気に解かれる解放感


と、ネタバレなしではここまでになってしまいますが

この作品は、真実を知らない状態で最後まで見るからこそ

味わえるものがある作品だと思うので

是非気になったら視聴してみて下さい!!


動画配信サービスでは

AmazonプライムU-NEXTで視聴可能だったと思います。

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考察(以下ネタバレあり)

ここからはネタバレありの考察になります。




意図して与えられた、

意味がわからない数々のシーン


物語は主人公のテディが捜査のために

島に上陸するところから始まるが、

島に入ってから我々視聴者が目にするもの一つ一つに

漠然とした不信感のようなものが

付きまとうようになっていました。

そもそも、

テディの目的である突如消えた女性患者を見つけるというのは、

視聴者にとっても視聴する上での態度でした。

したがって、必然的に視聴者は消えた患者の行方を

少なからず予想しながら見ていたでしょう。

そんな中、島に入ってから数々の意味深なシーンがあります。

さらに、島にいるのは一般の人にとって、

見えてる世界や考えていることが想定外の精神病患者達...

患者達の発言や行動1つに意味があるのか?

と疑問を抱く羽目になります。

また,主人公のテディは、

トラウマを抱えている上に、度々悪夢や白昼夢

幻覚らしきものを見ます。

しかもどれがハッキリ幻覚なのか視聴者には当然分からないままです。

視聴者は、あれ、これ何か意味あるのか?

実際に今存在する人?

回想なの?

テディの何時の経験?

謎ばかりが増えていきます。

しかしこれらの散りばめられた謎はラストで一気に明らかになります。

この、最後の最後で一気に明らかになる快感

この映画の魅力だと思います。



ようやく侵入したC棟で待ち受けていたものは?


テディの本当の目的、この島の陰謀、ようやく訪れたチャンス

満を持してC棟に侵入しますが...


入り込んで行った先...

1人の患者とテディは会話をします。

しかしどうも会話の意味が分からない

患者はテディと知り合いの様子

テディのせいで酷い目にあった?

テディは患者に抜け出せるからと何かをさせた??

どういうことなのかイマイチ要領を得ません。

もしかしたら、テディの語っていた

「1度シャッターアイランドに入れられ釈放されたことのある患者」

のことか?

あるいは、精神病患者の戯言か?

C棟に入ればなにか掴めると思っていたにもかかわらず、

新たな謎を抱かせられてC棟を後に...

しかしこのC棟での謎は大きな意味を持ってきます。



隠された真実によって見え方が変わる仕掛け



C棟での肩透かし感によって

テディは焦りを覚え始めます。

視聴者もテディと同様

それなら灯台しかない!!

という気持ちにさせてられたでしょう。

しかし実はここのテディの焦りは、

自己矛盾が意識化されそうになったことへの逃避でもありました。

後にテディは、2週間前にこの患者を痛めつけていたことを

知らされますが、それは映画のラスト部分

この段階ではまだ視聴者は、

テディ自身が精神病患者であったことは知りません。

したがって、C棟であった

精神病患者が戯言を吐いてテディを動揺させただけ?

という印象に変わってしまいます。

それこそまさに、洞窟であった幻覚に言われた

「頭がおかしいって判断されれば何を言ってもそれで片付けられる」

ということを視聴者に体感させているようでもあります。

さらに、今まで自分を連邦保安官と思い込んで、

自己矛盾を上手く誤魔化してきたテディと同じようなことを

視聴者に無意識に行わせていた

ともとれます。



真実を知り合点がいく今までの謎



灯台に辿り着き、テディと視聴者は真実を知ります。

テディ自身が精神病患者だったこと

幻覚は薬を投与しなくなったが故の禁断症状だということ

島全体の協力の元、

テディは自身の妄想を追体験していた。

だから、後半身勝手に動き回っても咎められず済んだこと

突然消えた女性患者など存在していなかったから、

手がかりも出てこなかったこと

今までのいくつもの謎に一気に合点がいきます。


さらに、散々出てきた

妻と女の子の幻覚ですが

テディの本当の過去が明らかになるまでは

女の子は戦地で救えなかった女の子、でした

それにもかかわらず、妻と一緒に並んで幻覚として現れていたのは

紛れもなくテディ自身の最愛の娘であったからです。


皆さんは、

この真実が明かされるまで妻と女の子の幻影が

一緒に並んで出てきたこと

どう解釈していたでしょうか

戦地で印象深かった女の子の亡骸だったから

救えなかった罪悪感として強いトラウマになっている

だから、妻と共に現れている、と

私は思っていました。


しかし、真実は違います。

この女の子がかつての戦地で救えなかった女の子だったのは

テディと視聴者の中だけでした。

これによって私は、

如何にして人は、

知っていることや信じていたいことを軸に

事実を編集して認識しているか

を実感させられました。


ジョン・コーリー医師が避けたかったロボトミー手術



物語中盤からテディは、

この島では患者を洗脳するにも等しい手術が行われている。

と信じ続けていました。

しかし、実際は、まさしくテディ自身が

病状が改善されないことから

ロボトミー手術を施される瀬戸際にいました。

それを避けたかったジョン・コーリー医師達は、

テディを妄想から現実に引き戻すため

大掛かりな作戦を実行していました。

これには、

実際に19世紀後半まで精神病患者に対する

効果的な手術として行われてきてしまった歴史

もう二度とこのような禁忌を

正しい行為として浸透させてはいけないだろう

という、精神医学の直面していた問題が表現されていました。


おそらく、この映画内の時代は

ロボトミー手術がまだ行われつつあった時代だと思われます。

だからこそ、最終手段として取り上げられています。

しかし、ジョン・コーリー医師は

ロボトミー手術を悪として語っており、行いたくなかった。


この葛藤は、当時精神病患者への

効果的な治療法がなかったからこそ

即効性のある治療法として

信じられてきてしまったやむを得なさ

現していたのかもしれません。

そういった精神医学会の時代背景も考慮すると

物語の最後に見せる、医師達の悲しみの表情には

何とも言えない気持ちになりました。




ラストシーンについて


テディはやはり妄想から覚めなかったのか?


灯台で真実を知らされたテディはとても混乱していました。

それでも、ジョン・コーリー医師の必死の語りかけの末

眠りから目覚めたテディは、

自らの本当の過去とこの島にいる理由を認めたかに見えます。

しかし、暫くするとまた

自分を連邦保安官と思い込んでいた時の発言をします。

それによって、テディは

これからロボトミー手術が行われるであろう場所に連れていかれ

この映画は幕を閉じます。

このシーンでは、医師達同様、私も

やっぱり戻らなかったのか...

と悲しい気持ちになりましたが

同時に別の解釈も生まれました。


それは、

テディはわざとロボトミー手術を受けるように

最後の発言をしたのではないか?

というものです。


テディにとって妻が子供を殺したこと

その妻を自らが殺したことは

受け入れ難いことです。

現実に向き合い、妄想の世界から戻ってくることは

それを受け入れることを意味します。

しかし、ジョン・コーリー医師が言っていたように、

それらを受け入れ

現実を正しく認識できたこと

何度かあったようです。

これには、

受け入れ続け、

過去として認めて生きていくことの難解さ

あるのだと考えられます。

だから、テディは

これから真実を受け入れ続けて生きていくことが耐えられない

と、考えて

ロボトミー手術を受けることを選んだのではないでしょうか。

あるいは

過去を受け入れたけど、

この先また妄想に逃げてしまうかもしれない

その度に、妄想から戻してもらい、

現実を受け入れさせられる瞬間の苦しみ

何度も味合うのは耐えられない


と考えたのかもしれません。


この映画では実際のテディの最後の状態は語られませんでしたが

医師達に連れられて歩く

妙に落ち着いたテディを見ていると

なんだかそのような気もしたものです。



蛇足のような後書き

シャッターアイランドという名前は

閉ざされた孤島としての意味と

私達の現実を構成する脳を意味していたのかもしれません。

脳科学に明るくはありませんが...

脳には、島皮質と呼ばれる部位があるようで

またテディが苦しんだ現実と妄想の世界も

脳によってもたらされるものであり、

作中登場した精神病患者達も脳に疾患を抱えています。

そこから、

妄想の世界=脳が現実から閉ざされた状態

ということでシャッター(閉ざされた)アイランド(脳)

また、精神病患者に有効な手術として扱われたロボトミー手術も

脳に対しメスを入れ、脳内の神経を切り離す手術であることから

閉ざされた脳の状態を開くという関連性だとも取れます。

シャッターアイランドという作品名には、

興味深い意味が込められていたのかもしれないですね。