フィクション履歴

触れることで何かを感じ取れたようなフィクションについての記録です

ここは退屈迎えに来て [見どころ&感想] 美化された過去と今を生きる切なさ

今回の感想は

どこかしら満足のいかない今を生きる、現実味溢れる人物達と、輝かしがった過去が綺麗に描かれた

ここは退屈迎えに来て」、という作品です


あらすじ、見どころ&感想は物語の重要なネタバレはなし

その後の考察はネタバレありです

  • 作品概要
  • あらすじ
  • 見どころ&感想(ネタバレなし)
    • 短編集のようで繋がりの見えてくるストーリー
    • 描かれているのはまるで現実のようなフィクション
    • 様々なテーマが対照的に描かれている面白さ
    • この映画を見ると...旧友に会いたくなる
  • 考察(ネタバレあり)



この映画を楽しめる人

学生時代に何かしら楽しかった情景や憧れの人がいた人

人間味溢れる登場人物が好きだったり、見ていくうちに人間模様がぼんやり伝わるのが好きだったりする人

挫折したことのある人

楽しめない人

学生時代が苦痛でしかなくて思い出したくもないし連想なんかさせないでって思う人

ハラハラするアクションや背筋が凍るような恐怖とかの所謂興奮を映画で味わいたい人

挫折なんかしたことないし 人生全部上手くいってるよ♪って人

作品概要

作品名 : ここは退屈迎えに来て
媒体 : 邦画-2018上映
監督 : 廣木隆一
キャスト

あらすじ

かつて何者かになれると思って上京したが、結局地元に戻ってきた私

高校の頃の友達と共に、皆の憧れの的だった椎名くんに会いに行くことになる

高校時代を懐かしみながらも、椎名くんに会いに行く私や、その他の面々の過去や今が短編集のように切り替わりながら描かれていく...

果たしてかつての憧れだった椎名くんの今は...


見どころ&感想(ネタバレなし)

短編集のようで繋がりの見えてくるストーリー

基本的に、椎名くんに会いにいく私と、
高校時代の私や椎名くんを取り巻く人物の過去(あるいは今)などが交互に描かれていく
したがって、見ていく中で登場人物達の関係性や思い、この人は誰なのか...といったことを理解していく形になっている
だが、どのシーンも味わい深さや,実際に現実に生きているかのような人間らしさに溢れていて、短編集のようでもあった

例えば冒頭...
椎名くんに会いにいく車中のシーンで、私はかつての思い出話に花を咲かせているが、上京して上手くいかなかった現実のやるせなさ退屈な今も表現されている

対して、高校時代の回想では...
自分達が世界の中心と錯覚していた華々しい高校時代の風景からノスタルジーを感じられる
ただ高校生が会話しながら日常を送っている様の中にも、その人達の関係性や距離感を表していたりと
各シーン見ていてどれもどこか身近なようで、
ノスタルジーや哀愁漂う雰囲気があった

そうして見ていくうちに1つの物語として登場人物達の過去と今が感じ取れる作品である


描かれているのはまるで現実のようなフィクション


タイトルにもあるように様々な人物の退屈な今が描かれている
一言に退屈といってもそれは様々で
上手くいかない現実や色々なことに折り合いをつけ諦めながらも生活してきたこと
そういった雰囲気から画面の向こうに存在するのは、実際に存在している生身の人間かのようなリアルさが感じ取れる

様々なテーマが対照的に描かれている面白さ


高校時代から月日が経った今と懐かしくも輝いていた過去
この2つは単純に時間の概念において対照的に描かれているが他にも対照的に描かれているものがいくつかある
橋本愛演じる「私」と門脇麦演じる「あたし」
2人は対照的なヒロインとして描かれている
(どちらも役名が私、あたし...と一人称になっていることなどから)

「私」と「あたし」の詳細はネタバレになるため詳しくは考察にて

そして、
視点も時間も代わる代わる進むことで表現される内と外の世界

内の世界とは...

  • 高校時代誰もが憧れていた椎名くんを取り巻く環境①
  • そのクラス独特の雰囲気そのもの②
  • 椎名くんに憧れを寄せるクラスメイト達②
  • 月日が経った今でも椎名くんに憧れを抱く私の視点③


対して外の世界とは...

  • 高校を卒業して月日が経った今①’
  • 皆の憧れの椎名くんを知らない第三者的立場②’
  • 椎名くんと再開して見えてくる椎名くんから見た私③’

となってそれぞれ①と①’,②と②’,③と③’で対照的に描かれているいる


見どころ&感想まとめ

この映画を見ると...旧友に会いたくなる


キラキラしている高校時代の回想から、ふと学生時代に戻りたくなるのもあるがそれと同様に旧友に会いたくなる
この映画は全編通して大きな出来事や事件は起こらず
登場人物達の会話や関係性から色々なものが表現されている映画である
登場人物達が友達と過去も今も変わらず話している様子や,再会し当時の出来事の話題に花を咲かせる姿にいつの間にか自分を重ねてしまうだろう


見どころ&感想は以上になります。
少しでも見てみたいと思えた方は是非見てください

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考察(ネタバレあり)

ここから先はネタバレありになります。
まだ作品を見てない方は読むのをオススメしません
と言っても作品自体、あまり大きなストーリーの変化がないものなので
考察はそれほど筆が乗らないかもしれませんが...

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シャッターアイランド : 伏線回収の気持ちよさと新たに植え付けられる疑問

中盤あたりまでは意味がわからなくていい映画

常に視聴者に疑念を残しつつ最後に事実を突きつけてくる

考察が捗りそう、そういう映画だった

感想までは重要なネタバレ無し

考察からはネタバレありでの記録です。

  • 作品概要
  • あらすじ
  • 感想
    • 常に植え付け続けられる謎
    • テディから語られる過去
    • 孤島ならお馴染みの荒れ始める天気
  • 考察(以下ネタバレあり)

あらすじ


凶悪犯罪を侵した精神病患者を収容するシャッターアイランド

この監獄は沖合に浮かぶ孤島であり脱獄など不可能

そんなシャッターアイランド1人の女性患者が姿を消す

主人公の連邦保安官テディ・ダニエルズは

操作のために相棒とこの島に乗り込むが...


感想

常に植え付け続けられる謎


失踪した患者を捜査するため

シャッターアイランドにテディが上陸してから物語は始まる。

だが、次第に捜査をしていると、様々な疑念が浮かんでくる。

周りは精神病患者だらけで事情聴取をするにも話が噛み合わない

どこか捜索に積極的ではない看守

この島に隠された陰謀

テディが頻繁に見る夢

失踪した患者はどこに消えたのか

序盤はとにかくこの作品に引き込まれた。

ミステリーが好きな人ならば,

テディと真実について考えながら見入ってしまうだろう。


テディから語られる過去


捜査をしているうちにテディは相棒とある程度打ち解け、

自らの過去を語る。

そこでテディの目的と隠されていた思いを知ることになる。

これにより更に今後の展開から目が離せなくなった。


孤島ならお馴染みの荒れ始める天気


孤島ものならよくある中盤に差し掛かって天気が荒れる展開に...

天気が荒れてトラブルに見舞われるシャッターアイランド

テディはこの隙に調査範囲を広げていく。

遂に何らかの証拠を見つけられるのか?

テディの追い求めるものはこの先にあるのか

しかし,「あれ?」という謎を

これでもかと植え付けてくるシーンの連続??


そして...


焦りを感じ始めるテディ

深まった謎が一気に解かれる解放感


と、ネタバレなしではここまでになってしまいますが

この作品は、真実を知らない状態で最後まで見るからこそ

味わえるものがある作品だと思うので

是非気になったら視聴してみて下さい!!


動画配信サービスでは

AmazonプライムU-NEXTで視聴可能だったと思います。

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考察(以下ネタバレあり)

ここからはネタバレありの考察になります。

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クワイエットプレイス : 息を飲む緊迫感と家族愛

2年くらい前に見たホラー映画のネタバレ無し感想です。

ただ怖いだけじゃない、絶妙なスリルがある 。

クワイエット・プレイス (吹替版)

クワイエット・プレイス (吹替版)

  • 発売日: 2019/01/09
  • メディア: Prime Video

  • 作品概要
  • あらすじ
  • 感想(ネタバレ無し)
    • 音を立てることが許されない過酷さ
    • 生き残れたのは、ごく普通の家族
    • ラストに向けて不穏な空気に
  • 考察(以下ネタバレあり)

作品概要

作品 : クワイエットプレイス

ジャンル : 洋画-ホラー

監督 : ジョン・クラシンスキー

キャスト

  • ジョン・クラシンスキー
  • ミリセント・シモンズ

あらすじ

音を出してはいけない...

奴らが来るから...

荒廃した世界で、アボット一家は手話を使えたこともあり生き延びてこられた。

しかしその生活の過酷さ、迫り来る恐怖

果たして一家は生き残れるのか...

感想(ネタバレ無し)

音を立てることが許されない過酷さ


奴らは音に反応する。音を立てればやられる。

音を立てなければいい、だが簡単ではないことを冒頭で教えられる。

そして、奴らは人類よりも高位な捕食者であることも。

突如天敵が現れることで、日常は緊迫した世界へと変化した

音をたててはいけない。

それは、人が生きる上で如何に過酷なことなのか、この映画を見るまで本当の意味で理解出来なかった。

家電、食器、靴、会話までもが制約された中での生活。

食料調達すら命懸け。

ホラー映画なのに登場人物は悲鳴すらもあげられない。

だからこそ、見ていて伝わる緊迫感。


生き残れたのは、ごく普通の家族


他のホラー映画は本編丸々恐怖に呑まれる非日常的な時間を描いているが、この映画はごく普通の家族の日常が描かれている。

音が出せない以外は、ごく普通の生活を送っている。

一家には3人の子供がいる。それもまだ幼い子供。

子供のうちは遊びたいものだから、音を出さずにできる遊びなんかを楽しむシーンがある。

母親が洗濯するシーンなども。

この家族は生き延びるだけでなく、音を立てられない緊迫感の中生活してきた

ラストに向けて不穏な空気に


前述した通りこの一家はごく普通の家族であり、小さな子供がいる。

そして、どの家庭でもあるように、親と子で僅かなすれ違いが起きる。

さらに、物語が進むにつれて音が出せない状況にも関わらず危険な事態が予想され...

ただ怖いだけでなく緊迫感の中、この先の展開はどうなるのかというスリルも感じられる。

そして...


ラストのスリルと描かれる家族愛


と、なるべくネタバレはしたくないのでここまでになってしまいます。

最後に言えることは、家族の愛があったからこその感動と衝撃のラストに繋がります。


その様子には、ホラー映画なのに心に込み上げるものがあります。

少しでも気になった方は是非見てみてください。

クワイエット・プレイス (吹替版)

クワイエット・プレイス (吹替版)

  • 発売日: 2019/01/09
  • メディア: Prime Video


考察(以下ネタバレあり)

ここから先はネタバレありの考察になります。
まだ見てない方は読まないことをおすすめします。

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<harmony> ハーモニー : フィクションというより書物としての完成体

だいぶ前に読んで衝撃を受けた作品について記録しておきたいと思う。

直接手的なネタバレは主に無いので気になった方はぜひ読んで頂きたい。

個人的にこの作品よりも素晴らしいと思ったものに未だに出会えていない。

作品概要

作品 : ハーモニー

著者 : 伊藤計劃

媒体 : SF小説(ハヤカワ文庫2014年新版)

あらすじ

 21世紀後半、大災禍(ザ・メイルストロム)と呼ばれる世界的な混乱を経て人類は大規模な福祉厚生社会を築き上げていた。

医療技術の発達で病気がほぼ駆逐され,人類は身体を,自分を,他者を,大事にするようになった。

 そんな見せかけの優しさや倫理が横溢する``ユートピア‘‘で人々は暮らしている。そして,息苦しさを感じていた3人の少女は共に死ぬことを選んだ。

 それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは,再び世界が陥った大混乱の最中,だだひとり死んでいったはずの少女の影を見る。

感想

ユートピアに見せかけたディストピアという皮肉


 まず作中序盤では,ハーモニーの世界観そのものであるユートピア的側面がトァンの日常と共に語られていく。

医療技術の発展により病気と人の身体にはどう変化が起きているのか,人々はどのような生活を送っているのか....

 だが,同時に語り手であるトァンからは13年前の回想などを通して,生きづらさ,息苦しさが語られる。

さらに,作中中盤から終盤にかけてはユートピアに見えた世界が大混乱に見舞われる。

大災禍を経験して変化し成長したかに見えた世界が危ぶまれるさまは,完全な世界などは存在しない,と言っているようである。

また,病気の駆逐という偉業が成し遂げられた世界にも関わらず,主人公を含む幼い子供達が死を望む様は「こんな世界は理想郷なんかじゃない」と皮肉っているようでもある。


如何にして医療の発達と優しさに溢れた世界が子供達を追い詰めているのであろうか。

言語化されない息苦しさ


 誰しも悩みや不安は多かれ少なかれ抱いているものではあるが,その中でも深刻な生きづらさというものを感じたことはあるだろうか。

ハーモニーではこの生きづらさや息苦しさ,言語化できない苦しみが裏のテーマとして込められているのではないか。

「真綿で首を締められる」作中そう表現された生きづらさは,同じように現代で苦しむ私たちにとっての一種の理解者...あるいは代弁者と思わせる繊細さが感じられた。

進化は継ぎ接ぎにすぎない


 序盤は便利さによって堕落する人間、中盤は世界を襲う大混乱の裏に隠された人類の進化の布石、終盤は進化の結果、のように人類としての進化が作中で描かれている。

 それらはまるで、「長い年月をかけて変化し続けてきた進化の軌跡は、その場しのぎの継ぎ接ぎの産物にすぎないのだ」という著者である伊藤計劃の学術的見解のようである。

その見解はある種興味深くも恐ろしく,真実味があるようにも受け取れた。事実か否か病理に明るくない為判別のつかないが、作中では糖尿病の話が登場する。

病名としての認知度的に読者には伝わりやすい例えであり、この話で進化というテーマについてより惹き込まれた。

 また、誰しも一度は意識というものの実態は何なのかと思いを巡らせたことがあると思う。著者である伊藤計劃にとってはこの本がそれの答えなのだ。

教示される気持ち良さ


 トァンは回想の中で度々、共に死のうとした少女の1人であるミァハに諭されている。如何にして自分が死ぬべきか...昔の文化や出来事...思想...

 まるで、ミァハを教祖とした宗教であるかのような、それ程ミァハは聡明でいて脆かった。

しかし、読者にとってミァハはあくまで登場人物の1人にすぎず、トァンのようにミァハの言うこと全てを肯定的に受け入れたりはしないだろう。

だが、序盤の回想に出てくるミァハの教示は、ハーモニーの世界の技術や文化が昔(読み手である我々の現代社会)とはどう違ったのかという話であり、さながら世界史の授業を受けている気持ちになる。

 そうして、トァンと共にミァハの教示を受けていくうちに,教わる楽しさ嬉しさのようなもの感じるようになる。

気付けば思想や思いまでも受け取ってしまうような、惹き付けられる勢いがミァハにはあった。

そしてなによりもミァハによって告げられる言葉の数々が、今は亡き伊藤計劃の遺言であるかのように感じ、読み終わる頃には今まで味わってこなかった教示される気持ち良さを覚えていた。

洗練された想像力


 一見してユートピアのようであるハーモニーの世界は遠い先の未来であり、発達し変化した技術で溢れている。

そして、その技術の変化によって文化すらも変化する。そこまで考え込まれ構築された世界観は読み進めていくワクワク感を与えてくれる。

 それらの中でも、「デブ」というありふれた侮蔑表現がなくなっているというのは驚いた。その理由についてはぜひ実際に読んでみていただきたい。

最初からある違和感の仕掛け


 この作品は作中に〈〉で区切られている箇所がやたらある。

そして、「rule :」 というタブ付けのようなものや箇条書きのような箇所もいくつかある。

最初の方はこの奇妙な作風に違和感を抱いていたが、結末を迎えてこの作品の仕掛けの巧妙さと構成力に圧倒された。

この作品はただのSF小説ではない、文体を通して語られ、記録され、保存される書物としての完成体なのかもしれない。

そう思わせてくれる素晴らしい作品だった。